
工場や倉庫、建設現場で部下をまとめる立場の方は、経済ニュースをじっくり読む余裕などないと思います。それでも、二分だけ目を通しておいてほしい数字があります。これは「日本経済がどうなっているか」ではなく、「来年の今頃、あなたの現場に人が足りているかどうか」を語る数字だからです。
倒産が「人が採れない」という結果になり始めている
これまで、企業倒産の主な原因といえば資金繰りの悪化や経営判断のミスでした。しかし帝国データバンクの最新調査によれば、単純に「人が採れない、人が辞めていく」ことを直接の原因とする倒産件数が、目に見える速度で過去最多を更新し続けています。
特に注目してほしいのが二つ目の数字です。これは、市場競争に負けて倒れる企業だけでなく、「あの人が辞めた」という一点で事業が止まってしまう企業が増えていることを意味します。そして、その「あの人」とは往々にして、現場の熟練職人であり、現場を仕切れる班長であり、特定の機械を扱える唯一の人物です。
最初に苦しむのは建設・物流・介護・飲食
業種別に見ると、建設業が突出しています。全体の4分の1以上を建設業が占めているのです。次いで道路貨物運送業、老人福祉事業、飲食店が続きます。これらに共通するのは、現場の体力と経験に強く依存しており、賃上げだけでは簡単に穴を埋められないという点です。
出典:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」
もしあなたがこれらの業種で現場を任されているなら、これは他人事として読み流せる統計ではありません。あなたのいる業界は、この「人手危機」の最前線に立たされています。
なぜ外国人労働者は「日本一択」でなくなったのか
これまで現場の管理者は、ある前提に無意識に頼ってきました。「日本で働けるだけでありがたいはずだから、多少我慢してでも定着してくれるだろう」という前提です。この前提が、いま崩れつつあります。
理由は単純です。円安が続き、本国に送金する際に目減りする実感が強まっています。同時に、同じく人手不足に悩む韓国や台湾が、より競争力のある条件を提示し始めています。
| 国・地域 | 技能レベル | 月給(円換算) |
|---|---|---|
| 日本 | 技能実習 | 21.5万円 |
| 日本 | 特定技能 | 24.8万円 |
| 韓国 | 低熟練 | 29.3万円 |
| 韓国 | 中熟練 | 32.2万円 |
2024年時点のデータ。韓国の低熟練・中熟練層の賃金は、いずれも日本の技能実習・特定技能を上回っています。台湾の賃金水準も上昇を続けています。
興味深いのは、韓国が外国人労働者の受け入れ枠を2024年の16.5万人から、2026年には8万人まで段階的に絞り込んでいることです。一見すると「競争から降りた」ように見えますが、実態はむしろ季節労働者や中熟練層への重点シフトです。つまり韓国は人材獲得をあきらめたのではなく、狙いをより精緻にしているだけなのです。
日本で働く外国人労働者の総数は、2025年10月末時点で257万1,037人と過去最多を更新しました。しかし「総数が伸びている」ことと「新しく来る人が来たがるか、定着したがるか」はまったく別の話です。既存の蓄積が、新規獲得の現場で起きている変化を覆い隠しているにすぎません。
日本政府も手をこまねいているわけではありません。2025年度の全国加重平均最低賃金は1,121円まで引き上げられ、過去最大の上昇幅となりました。ただし「2020年代のうちに全国平均1,500円」という目標に届かせるには、まだかなりの距離があります。そして、この賃上げペースについていけない中小企業こそが、冒頭で紹介した441件の倒産の中心を占めているのです。
これは、現場の管理者にとって何を意味するのか
賃上げを決める権限も、為替や韓国の政策を左右する力も、あなたにはないかもしれません。しかし、これらの数字が合わさって語っているのは一つのことです。「多少きつく当たっても、我慢して居続けてくれるだろう」という前提の上に成り立っていた、これまでの現場マネジメントのやり方は、その前提ごと崩れつつあるということです。
いま、働き手には選択肢があります。だからこそ、指示をきちんと言語化できるか、仕事の内容を明確に伝えられるか、不要な摩擦を減らせるか――これはもう「マネジメントスタイルの良し悪し」の話ではなく、「明日、現場に人が残っているかどうか」に直結する現実的な課題になっています。
このシリーズでは、次回以降、現場の管理者が日々ぶつかっている具体的な摩擦の場面から、一つずつ掘り下げていきます。



