
前回の記事では、小米(Xiaomi)の日本における出店パターンを取り上げました。都心部を避け、イオンモールのような郊外型商業施設に集中し、ベッドタウンに住む共働き世帯を狙いつつ、中国系住民の多い地域をうまく活用しているという内容でした。これが小米一社だけの選択であれば、単なる興味深い事例にとどまります。しかし視野を広げてみると、AnkerやBYD(比亜迪)もほぼ同じ手法で日本市場に入り込んでいることが分かります。これは偶然ではなく、ある程度検証可能な傾向だと考えられます。
Anker:小米とほぼ重なる出店地
Ankerは日本法人Anker Japanを通じて、すでに50店舗を超える常設直営店を日本で展開しています。その店舗リストを小米と照らし合わせると、かなりの部分が重なっています。例えば埼玉県越谷市のイオンレイクタウンkaze、千葉県の永旺梦乐城幕張新都心(イオンモール幕張新都心)には、どちらのブランドも出店しており、Ankerは越谷に日本国内でも規模の大きい体験型旗艦店を構えています。
背景にある考え方は小米と似ています。モバイルバッテリーやイヤホンといった小型製品は、もともとECや家電量販店(ヨドバシカメラなど)でも十分に売れる商品です。Ankerが今、力を入れたいのは単価がより高いスマートホーム製品です。Eufyシリーズのロボット掃除機や家庭用防犯カメラ、Nebulaのレーザープロジェクターなどです。こうした製品は、家庭での実演や試用、そして車での持ち帰りが必要になります。郊外に密集する若い中国系住民も、こうしたスマート製品の主要な購入層になっています。
BYD:ベッドタウンに広がる自動車展示場
家電製品の出店であれば一般的な戦略にも見えますが、単価がはるかに高い自動車にこの考え方を当てはめると、戦略そのものの妥当性がより明確になります。
BYDは日本国内で100店舗を超える展示場の開設を計画しており、出店地は同様に港区や目黒区といった従来の高級車が集まる都心部を避け、さいたま新都心、越谷、川越、千葉県の船橋、柏市、そして東京都下の足立区、立川市といったエリアに置かれています。
| 検討要素 | 都心部 | 郊外のベッドタウン |
|---|---|---|
| 駐車コスト | 月額4万〜8万円に達することも珍しくない | 多くの世帯が自宅にガレージを保有 |
| 購入層の中心 | 富裕層が中心で、従来型の高級車を選びやすい | 共働き世帯で、通勤・送迎の実用需要 |
| 充電設備の設置条件 | 集合住宅が密集し、設置のハードルが高い | 戸建てや新型マンションで設置しやすい |
東京都心部で車を購入するのは、すでにポルシェなど従来型の高級車に慣れ親しんだ富裕層が中心です。一方、埼玉や千葉のような地域では、車は子どもの送り迎えや日常の通勤に欠かせない実用品であり、価格に対する感度が高く、BYDのようなコストパフォーマンスに優れた新興メーカーを受け入れやすい土壌があります。さらに、こうした地域に戸建てを購入した中国系の新中間層の中には、最初の電気自動車としてBYDのATTO 3やドルフィンを選ぶ人も少なくありません。中国系の保有者が日常的に子どもを送り迎えする姿そのものが、信頼性の高い口コミとして機能しているとも言えます。
なぜ各社が同じ方向に向かうのか
かつて中国ブランドが海外展開する際には、銀座や渋谷に店を構えてはじめて日本市場での足場を固めたと見なされる傾向がありました。しかし小米、Anker、BYDの三つの事例を見ると、より現実的な選択は逆方向にあります。Appleや従来の大手ブランド、高級車メーカーが長年占めてきた都心部の価値観や高い賃料を避け、東京圏の外縁部——埼玉、千葉、そして城東・城北エリア——にいる、購買力があり家族構成が安定していて、新しいものを試すことに前向きな勤労層・中間層を直接狙うという発想です。
この戦略に共通しているのは、既存の大手ブランドが最も強い土俵で正面から競うのではなく、相手の手が届きにくく、かつ自社に分があるユーザー層と生活の場面を見つけ出している点です。
おわりに
小米のスマート家電から、Ankerのスマートセキュリティ製品、そしてBYDの電気自動車まで、一見すると関連のない三つの業界が、日本市場において同じような経路をたどっています。郊外の大型商業施設や展示場、ベッドタウンに住む共働きの新中間層、そして中国系住民の多い地域がもたらす初期の信頼感です。これは、中国ブランドの海外展開が、かつての「まず都心の一等地に進出して実力を示す」という発想から、実際の購買力や生活の場面により近い戦略へと移りつつあることを示しているのかもしれません。この傾向が今後さらに他のブランドにも広がっていくのか、引き続き注目していきたいところです。



