小米はなぜ日本の店舗を郊外モールに置くのか

小米はなぜ日本の店舗を郊外モールに置くのか

小米(Xiaomi)は2025年から日本での実店舗展開を加速させており、現在では東京、埼玉、千葉に加え、関西の大阪、兵庫にも店舗を構えています。ニュースの見出しだけを見ると「小米が日本に店を出した」という単純な話に見えますが、実際の出店場所を一つひとつ確認していくと、ある共通点が浮かび上がります。それは、東京や大阪の都心部ではなく、いずれも郊外の大型商業施設に集中しているという点です。これは、かなり計算された出店戦略だと考えられます。

銀座ではなく、イオンモールへ

小米の日本店舗は、ほぼすべてがイオンモール(AEON MALL)ららぽーとといった郊外型の大型商業施設に入居しています。埼玉県の浦和美園店や川口店、千葉県の幕張新都心店、関西の鶴見緑地店、甲子園店、伊丹店など、いずれもこのパターンです。

これは小米が他の海外市場で取る戦略とは少し異なります。多くの国では、都市の中心部、人通りの多い一等地に旗艦店を構えることが多いのですが、日本ではあえて逆の方向を選んでいます。理由は主に二つあると考えられます。

主力商品が変わった

小米が現在日本で売り込みたいのは、スマートフォンだけではなく、「人・車・家」というスマート家電エコシステム全体です。ロボット掃除機、スマートテレビ、空気清浄機、スマート炊飯器など、体積の大きい家電が中心になっています。これらは現場での体験が重要で、購入後は車で持ち帰る必要があります。都心部は地価が高く、駐車も困難ですが、郊外の商業施設には大きな駐車場が併設されており、週末に家族で車に乗って買い物に出かける日本の生活習慣に合致しています。

「目新しさ」ではなく「生活の場面」を売る

商業施設内に店を構えるということは、来店客の多くがスーパーや家具店をひと通り見た後に立ち寄るということです。こうした状況では「このロボット掃除機をリビングに置いたらどうなるか」という具体的な生活の想像がしやすくなります。単に新しい技術を見に来るのとは、消費者の心理状態が違うのです。

実際に来店するのはどんな人たちか

これらの店舗が立地する地域を、日本の人口構成と照らし合わせてみると、二つの層が見えてきます。

一つ目は、郊外の「ベッドタウン」に住む新婚世帯や共働き夫婦です。埼玉の川口、越谷、浦和、千葉、そして関西の鶴見、西宮は、いずれも典型的なベッドタウンです。東京や大阪の中心部で働きながら、郊外に住宅を構えるか、より広い部屋を借りて暮らす層が多く住んでいます。こうした世帯は住宅ローンを抱え、共働きであるため、価格に敏感である一方、家事の時間を節約したいという強いニーズを持っています。小米のコストパフォーマンスの高いスマート家電は、まさにこの課題に応えるものです。

二つ目は、ブランドの記号性よりも性能や価格を重視する、実利志向の消費者です。日本のスマートフォン市場は長らく大手キャリア三社とiPhoneが主導してきましたが、近年は「SIMフリー端末+格安SIM」という低コストな生活様式が、こうした新興住宅地で広がり始めています。都心部でファッション性やステータスを重視する若者層と比べ、郊外の消費者は製品そのものの仕様や耐久性、価格のバランスをより重視する傾向があります。

見落とされがちな要因:中国系住民の多い地域

小米の出店地図を、日本における中国系住民の分布と重ねてみると、その重なりはかなり高くなっています。これは偶然ではなく、隠れたプラス要因だと考えられます。

店舗エリア中国系住民との関連
埼玉県川口市外国人住民の中で中国籍が6割を超える、よく知られた中国系コミュニティ
東京都江東区亀戸中国系住民の比率が高い江戸川区、小岩、新小岩などに近接
越谷、浦和、幕張東京のIT、金融、貿易業に従事する中国系の新中間層に人気の居住エリア

これらの地域に暮らす中国系住民にとって、小米はあらためて知る必要のあるブランドではなく、すでによく知っている存在です。そのため購入のハードルは自然と低くなります。これは雪だるま式の波及効果を生みます。新店オープン直後は、すでに小米のエコシステムに慣れ親しんだ中国系の顧客がまず購買を支え、商業施設や周辺の日本人住民に「このブランドは人気がある」という印象を与えます。その後、中国系住民が日常の近所付き合いや交友関係の中で、一声でロボット掃除機を操作するような実際の使用場面を見せることが、広告よりも説得力を持つことがあります。

小米の出店戦略は、表面上は都心部の高い賃料を避けているように見えますが、実際には中国系住民の分布に沿って、自社への受容度が最も高いコミュニティの中心に店を構えているのです。

おわりに

小米の日本展開は、本質的には「ライフスタイルブランド」としての打ち出し方だと言えます。都心部でApple Storeと正面から競うのではなく、日本の中間層や勤労世帯の週末の生活圏に入り込み、郊外の商業施設を拠点として、少しずつ日本の家庭のリビングに浸透していこうとしています。この戦略は小米だけの話なのか、それとも日本に進出する中国ブランドに共通する何らかの傾向なのか。次回は、Ankerと比亜迪(BYD)の事例から、この点をさらに掘り下げてみます。

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