
会社を辞めたいと思うとき、多くの場合はその場の感情に押されている。少し落ち着けばまた続けてしまい、次に気持ちが限界になったらまた同じことを考える。そういうことを繰り返しがちだ。
問題は辞めるか辞めないかではなく、一度もちゃんと考えていないことにある。
この記事では、退職を考えるときに整理しておきたいことをまとめた。前半は基本的な8つの問い、後半はついつい飛ばしてしまいがちな6つの補足だ。
前半:まず自分にこの8つを問いかけてみる
決断する前に、次の8つをじっくり考えてみてほしい。できれば紙に書き出すといい。
辞めたあと、何をしたいのか。自分にできることは何か。その差はどれくらいあるか。
今回の退職は、今の状況から逃げたいのか。それとも、別にやりたいことがあるからか。
逃げたいのであれば、何から逃げようとしているのか。意味はあるが苦しいことか、それとも意味のない消耗か。
逃げようとしていることに意味があるなら、退職はもう少し考えたほうがいい。ただの消耗なら、辞めていい。
別にやりたいことがあるなら、次のステップをどう考えているか。方向が具体的なほど、動きやすくなる。
自分や家族の家計として、固定収入がなくなってどれくらい持ちこたえられるか。給与以外の収入はあるか。
退職によって何が得られるか。時間か、支出の減少か、体の休養か。それは今の自分にとってどれほどの価値があるか。
今の仕事の中で、次も絶対に必要な条件は何か。妥協できることは何か。二度と経験したくないことは何か。
この8つは大まかに、「なぜ辞めるのか」「どれだけ耐えられるか」「次に何を求めるか」という順番になっている。この順番で考えていくと、たいていは自分なりの答えが見えてくる。
少し掘り下げたい問い:逃げているのか、別のことをしたいのか
2番目・3番目・4番目の問いは、まとめて考えると混乱しやすい部分だ。
退職したいという気持ちには、おおむね二つの出どころがある。ひとつは別にやりたいことがあって、今の仕事がその邪魔になっているケース。もうひとつは今の状況に耐えられず、とにかくここから出たいというケース。どちらも理由としては成り立つが、次にとるべき行動はまったく違ってくる。
退職したい気持ちはどこから来ているか
→ 次のステップを固めてから動く。いつ辞めるかのほうが、辞めるかどうかより大事
→ さらに問う:耐えられないことに、意味はあるか
→ 少し立ち止まる。一時的に限界なだけかもしれない
→ 辞めていい。迷う必要はない
難しいのは、感情が高ぶっているときにこの二つを区別しにくいことだ。一つ試してみてほしいのは、「今の問題がすべて解決したとしても、まだ辞めたいと思うか」と自分に問いかけることだ。答えが「いや、それなら続ける」であれば、辞めたい理由は方向ではなく、目の前の問題にある。
後半:見落とされやすい6つのこと
8つの問いを整理したうえで、実際の判断に影響しやすいのに見落とされがちな点をいくつか挙げておく。
一、いつ辞めるか
タイミングの話
もうすぐ受け取れる賞与や、まだ行使していないストックオプション、あるいはほぼ終わりかけている重要なプロジェクトはないか。疲弊しきって手ぶらの状態で辞めるより、ある程度の成果を持った状態で辞めるほうが、次の交渉でも立場が違ってくる。
業界の今の状況
自分がいる行业は、今伸びているか、横ばいか、縮んでいるか。全体が縮小している時期や、構造的な変化が起きている最中であれば、空白期間は想定より長くなりやすい。今の市場で自分の経験やスキルがどれだけ通用するか、あらためて確認しておく必要がある。
二、どう辞めるか
給与以外に持ち出せるもの
この仕事を通じて、給与以外に積み上げてきたものはあるか。たとえばクライアントとの信頼関係、業界内でのつながり、特定の会社での勤務経験そのもの。こうしたものが次のスタート地点に影響することは、意外と多い。
辞め方について
採用時のリファレンスチェックは以前より一般的になっている。引き継ぎをどう行うか、上司や同僚との関係をどう終わらせるらは、後から思わぬ形で響いてくることがある。今の職場の人が、いつかまた同じ業界で仕事をする相手になる可能性はある。きれいに辞めることは、自分自身を守ることでもある。
三、辞めたあとのこと
決まったリズムがなくなったときに対応できるか
退職前は自由を望んでいたのに、いざ辞めてみると決まった時間割がないことで落ち着かなくなる人は多い。毎日の出退勤という外からの枠がなくなったあと、自分でその時間を意味あるものにできるかどうかが、この期間をどう使えるかに直結する。自信がなければ、在職中に次を探す方法のほうが合っているかもしれない。
うまくいかなかったときにどうするか
新しい計画が思い通りにならなかった場合、次にできることは何か。給与が下がっても元の業界で再就職する、しばらく単発の仕事で食いつなぐ、といった選択肢を考えておく。最悪の場合を想定して、それでも受け入れられると思えれば、動くときの気持ちが変わってくる。
まとめると
14の問いは、つまるところ4つのことに整理できる。
| 考えること | 具体的には | 対応する問い |
|---|---|---|
| なぜ辞めるのか | 別にやりたいことがあるのか、それとも今の状況に耐えられないのか | 01 — 05 |
| どれくらい持ちこたえられるか | 経済的に空白期間を乗り越えられるか、家族への影響はどうか、持ち出せるものは何か | 06、07、11 |
| いつ辞めるか | 業界の状況はどうか、まだ受け取れていないものはないか | 09、10 |
| 辞めたあとのこと | 次に何を求めるか、最悪の場合は何か、それを受け入れられるか | 08、12、13、14 |
この4つについて、すべてに納得のいく答えが出なくていい。ただ、どれもちゃんと考えたかどうかは大事だ。考えた結果、「やっぱり続ける、ただし少し働き方を変える」になることもあるし、「やっぱり辞める、早いほうがいい」になることもある。どちらも普通のことだ。
最後に
辞めるか辞めないか自体がいちばん大事なのではなく、その決断をする前に、自分の状況と次に何を求めているかをきちんと把握できているかどうかのほうが重要だ。
上に挙げた問いを一つずつ書き出してみると、書く過程で自然と整理されていく。
感情が高ぶっているときに下した決断は、落ち着いたあとで後悔しやすい。冷静な状態で考えた決断は、たとえ結果が思わしくなくても、納得しやすい。退職はそれだけの時間をかける価値がある。


