いつの間にか富裕層になる人の共通点

いつの間にか富裕層になる人の共通点

最近、日本のメディアや金融機関で「いつの間にか富裕層」という言葉をよく見かけます。地主でも経営者でもなく、ごく普通の会社員が、特に何か大きな勝負に出たわけでもなく、毎月の積立を地道に続けていたら、いつの間にか金融資産が1億円を超えていた、というケースを指す言葉です。背景には日本株のここ数年の上昇と、社会全体の資産形成に対する意識の変化があります。今回は、この現象について書かれた3つの資料を読み比べてみました。

珍しい話ではなくなってきている

経済評論家の加谷珪一氏はコラムで、従来の富裕層といえば地主や企業オーナー、開業医など、特別な立場や資産を持つ人たちがほとんどだったと指摘しています。一般の会社員がそこに加わるのは、これまでほぼ不可能に近いことでした。唯一の例外が、株式投資を20年、30年と地道に続けてきた人たちです。長期で積立を続ければ、資産が1億円を超えるのは決して夢物語ではありません。欧米では、普通の会社員が長年投資を続け、退職時には数十万ドル単位の資産を持っているケースが珍しくなく、日本でも同様の傾向が出てきているといいます。

この背景には2つの要因があります。一つは税制環境の変化、特に2024年から始まった新NISA(少額投資非課税制度)によって、長期で株式を持ち続けるハードルとコストが下がったこと。もう一つは、若い世代を中心に株式投資に対する心理的な抵抗感が薄れてきたことです。

データで見ると:株式比率は低いが、高収入世帯は積極的

野村証券のチーフ・ストラテジスト宮嵜浩氏は、データの面からこの現象を掘り下げています。日本の家計の金融資産配分は元来保守的で、全体としては世間で言われているほど株式が広く保有されているわけではありません。

地域家計金融資産に占める株式の割合
日本12.2%
ユーロ圏25.3%
米国41.5%

ただ、収入帯別に見ると差は明らかです。日本で最も収入の高い世帯(上位10%、年間収入1,662万円)は、貯蓄に占める株式(投資信託含む)の割合が24%に達し、最も収入の低い世帯(下位10%)の11%、平均世帯の19%を上回っています。つまり、収入が高い世帯ほど貯蓄の多くを株式市場に置く傾向があり、これが「いつの間にか富裕層」を生み出す土壌の一つになっているわけです。

宮嵜氏は具体的な試算も示しています。高収入世帯が20年前から毎月6万円、全世界株式(MSCI ACWIが基準)を購入し続けた場合、20年後には貯蓄が1億円を超え、「いつの間にか富裕層」の仲間入りをすることになります。ただしその場合、貯蓄に占める株式の割合は92%に達し、資産額全体が株式市場の値動きに大きく左右されることになります。これがこの種の資産形成の最大の弱点とも言えます。見た目の資産は厚みがあっても、実際のリスク耐性はそれほど高くないかもしれないということです。

日本の富裕層と世界の富裕層、どこが違うのか

野村総合研究所(NRI)が2025年12月、財務省財務総合政策研究所の研究会に提出した資料には、より体系的な全体像が示されています。2023年時点で、日本における純金融資産1億円以上の「富裕層」以上の世帯は、合計約165万世帯、全世帯の2〜3%にあたります。2005年から2023年にかけて、超富裕層(5億円以上)は227%、富裕層(1億円〜5億円)は189%、準富裕層(5,000万円〜1億円)は144%まで世帯数が増加しました。増加率は徐々に落ち着いてきているものの、いずれも着実に伸びています。

NRIの資料の中で印象的だったのが、日本と世界の富裕層を比較した部分です。日本の富裕層は「世帯当たりの資産規模」が明らかに小さく、その資産構成は不動産に大きく偏っています。日本の純資産上位1%世帯の平均総資産は約3億9,552万円で、そのうち77%が住宅・宅地、金融資産はわずか23%です。一方、世界の高額資産保有者(運用資産100万米ドル以上)の平均資産は約383万米ドルで、71%が金融資産、不動産はわずか15%です。つまり日本の「お金を持っている人」は、資産の多くが家に縛られていて、すぐに現金化したり市場で運用したりできる部分が相対的に少ないということになります。

気になった点をひとつ挙げると:日本の富裕層はESG投資への関心が明らかに低く、特に40歳以上の層では関心度が世界平均の半分程度にとどまっています。これも、保守的な資産配分の傾向と無関係ではないでしょう。

「いつの間にか富裕層」とは、実際どんな人たちなのか

NRIの資料には「いつの間にか富裕層」という分類が設けられ、その特徴がはっきりと示されています。

  • 属性:40代後半から退職前後の一般会社員、あるいは退職金の運用がうまくいった高齢者
  • 資産形成の手段:従業員持株会やNISAの枠を活用、もしくは退職金で外国株や暗号資産などに投資し、資産1億円を超えた
  • 価値観:生活スタイルはほとんど変わらず、これまで通りの収支感覚を維持。たまの贅沢も数十万円のゴルフセットや家族での海外旅行、車を少しいいものに買い替える程度
  • 金融習慣:以前から使っているネット証券やクレジットカードをそのまま使い続け、ポイント目的で選んでいる点も一般の会社員と変わらない

調査対象(金融資産5,000万円以上の会社員・公務員世帯)では、40代以上が全体の85%を占める一方、世帯年収700万円未満の世帯も4割強に及びます。つまりこの層は必ずしも高収入とは限らず、時間と継続によって資産を築いてきた人たちが多いということが分かります。

資産が増えても、生活スタイルを変える必要はない

3つの資料を並べて読むと、共通して伝えているメッセージがあります。それは、見た目の資産の増加と、本当の意味での資産の安定は、別の話だということです。

加谷珪一氏のコラムでは、この点がかなり率直に書かれています。日経平均株価は6月初めの時点で6万8,000円前後まで上昇していますが、この上昇の多くは将来の物価上昇をあらかじめ市場が織り込んだものであり、企業の業績がそれに伴って急激に良くなったわけではありません。今の株式の評価益を見て自分が「お金持ちになった」と感じ、生活スタイルを変えてしまうと、市場が下落に転じたときに困るのは自分自身です。実際、アメリカでは投資の成果で早期リタイア(FIRE)したものの、その後の物価上昇で以前より条件の悪い仕事に戻らざるを得なかった、という事例が相次いでいるそうです。

NRIの調査結果も、この点と重なります。「いつの間にか富裕層」が形成される理由は、まさに彼らが自分を「富裕層」だと意識せず、これまでと同じ生活ペースを保ち続けてきたからです。時間と複利の力にじっくり働いてもらう、というやり方です。野村証券側は別の角度から補足していて、株式の上昇によって資産が一極集中している場合(先ほどの92%が株式という例のように)、いずれ資産を取り崩したり、老後の生活設計や資産承継を考える段階になったら、プライベートエクイティや不動産、海外資産などへ分散することも検討すべきだと述べています。資産の構成が市場の上下に振られたまま、なんとなく高リスクな配分になってしまうのを避けるためです。

最後に

「いつの間にか富裕層」は、聞くと前向きな話に思えます。地道に時間をかければ、普通の人でもまとまった資産を築けるという話だからです。しかし3つの資料が共通して示しているのは、もう少し実務的な視点です。資産をどう積み上げたかが、その資産がどれだけ持続性を持つかを決める、ということです。長期にわたって地味に積み上げてきたお金は、短期間で大きく増えた「見た目の資産」よりも、たいてい変化に強いものです。資産が増えたとき、すぐに使い方を考えるより先に、その増え方を一度確認してみる方がいいかもしれません。

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