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2026年上半期、海外送金サービスを提供する Wise が、資本市場と日本市場の両方で大きな動きを見せています。一つはナスダックへの上場という会社全体の話、もう一つは日本国内での金融インフラへの直接接続という地域レベルの話です。両方を並べてみると、Wise がここ数年で目指してきた方向性が見えてきます。単なる「節約できる送金サービス」から、「世界の資金を動かすための基盤」へと役割を広げているということです。
ナスダック上場:資本市場でも国境を越える
2026年5月11日、Wise はナスダックに正式に上場し、ティッカーシンボルは WSE となりました。同時にロンドン証券取引所での上場(セカンダリーリスティング)も維持しています。この上場は「スキーム・オブ・アレンジメント」という法的な仕組みを使い、新設された Wise Group plc を持株会社として、既存株主の株式を新会社の株式に交換する形で行われました。
米国を主要な上場先として選んだ理由は、それほど複雑ではありません。米国は世界で最も流動性の高い資本市場であり、Wise はこれまでロンドン市場において、同規模の米国テック企業や金融企業と比べて評価が低く見られてきました。経営陣も、米国市場の方が Wise の米国内での成長ポテンシャルに見合った評価を受けられると明言しています。現時点で Wise はすでに Wise Account、Wise Business、Wise Platform を通じて数百万人の米国の個人・企業利用者にサービスを提供していますが、米国でも従来の銀行による高い手数料や遅い処理速度といった課題は依然として根強く残っています。
上場にあわせて公開された2026年度(2026年3月期)の業績データも、かなり良好な内容でした。
| 指標 | 数値 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| クロスボーダー取引量 | 2430億米ドル | +31% |
| 顧客保有資産総額 | 390億米ドル | +40% |
| うち Wise Assets 保有額 | 90億米ドル | — |
| カード決済額 | 440億米ドル | +37% |
| 純収益 | 25億米ドル | +19% |
| アクティブ顧客数 | 約1900万人 | +21% |
このデータの中で特に注目すべきは、顧客保有資産の増加率(+40%)が取引量の増加率(+31%)を上回っている点です。これは、利用者が Wise を「送金が終わったらすぐ使い切る一時的な通り道」としてではなく、複数の通貨での残高をそのまま保有し、さらには Wise Assets を通じて長期的な資産運用に充てるケースが増えていることを示しています。カード決済額の伸びも同じ傾向の表れと言えます。Wise のカードは「送金のおまけ」から「日常的な決済手段」へと役割を変えつつあり、特に複数の国を往来する人や、複数の国に収入源を持つ人にとってその傾向は強いようです。
もう一点触れておきたいのは、Wise Platform(銀行や金融機関に基盤技術を提供する事業)に、モルガン・スタンレーやスタンダードチャータード銀行といった大手金融機関が提携先として参加していることです。つまり Wise の技術提供は、自社アプリの利用者にとどまらず、従来型の銀行が国境を越えた取引を処理する方法そのものを変えつつあるということです。
日本市場:「周辺的な代替手段」から「インフラの一員」へ
資本市場での動きに比べると、日本での Wise の進展はもう少し長い時間軸で見る必要があります。実際には2025年から2026年にかけて、いくつかの重要な成果が段階的に実を結んだという経緯があります。日本は世界でも金融規制が厳しく、伝統的な銀行による壁が高い市場の一つとされており、第三者の決済事業者が清算システムの中核に直接アクセスすることは簡単ではありません。Wise がここで達成したことは、業界全体を見渡しても数少ない事例だと言えます。
全銀システムへの直接接続:非銀行として初の事例
日本の全銀システム(全国銀行データ通信システム)は銀行間のリアルタイム送金を支える中核的なネットワークで、これまでは免許を持つ銀行にしか開放されていませんでした。Wise は2024年10月に同システムへの参加承認を得て、2025年11月に正式にAPI接続を完了し、新方式のAPIを通じて全銀システムに接続した初の非銀行事業者となりました。同時に、日本銀行(中央銀行)に直接決済用の口座を開設し、直接清算を実現した初の資金移動業者にもなっています。
これにより、Wise は GMO や三菱UFJなどの提携銀行を経由する必要がなくなりました。中間の手続きを省くことで、海外から日本への送金は20秒以内で着金できるようになっています。現在 Wise 全体では送金の約75%がこのスピードで処理されており、日本での直接接続によってその比率はさらに高まると見込まれます。
カタカナ表記の不一致問題の解消:受取人名検索機能
日本国内での銀行振込では、受取人名(カタカナ)の半角・全角や空白の違いによって振込が返却されてしまう問題がよく見られます。全銀システムへの接続と並行して、Wise は TogoATM 交換サービスにも接続し、受取人名の自動照合機能を実現しました。送金前にシステムが自動で受取人の銀行登録名と一致しているかを確認することで、表記の細かな違いによる失敗や手数料の損失を減らすことができます。
第一種資金移動業の取得:上限額の解除
日本では第三者の決済事業者に対する一回あたりの取引上限額が厳しく制限されており、通常の第二種資金移動業のライセンスでは一回あたり100万円が上限となります。Wise は2024年初頭に、比較的取得が難しいとされる「第一種資金移動業(Funds Transfer Service Provider)」のライセンスを取得し、個人・法人ともに一回あたりの取引上限額を1億5000万円まで引き上げ、対応通貨も40種類以上に拡大しました。この変化により、Wise は単なる生活費の送金手段から、中小企業の大口の国際決済にも対応できるサービスへと拡張しています。
Apple Pay 対応:2026年の新しい動き
2026年5月12日、Wise Japan は Mastercard デビットカードの Apple Pay 対応を発表しました。個人アカウントと法人アカウントの両方が対象です。これにより、日本の利用者は iPhone や Apple Watch のウォレットに Wise カードを追加し、Mastercard のコンタクトレス決済に対応した店舗で、スマートフォンをかざすだけで決済できるようになりました。決済時には中間市場レートに基づいて、対応する通貨の残高から自動で引き落とされます。これは日本国内における Wise カードの利便性をさらに補完するものです。Wise はすでにオーストラリア、ブラジル、カナダ、シンガポール、英国、米国など複数の市場で Apple Pay に対応しています。
二つの動きが指し示す一つの方向性
資本市場での動きと、日本でのインフラ面での進展を並べて見ると、Wise がここ数年取り組んでいることは実は一つの方向に向かっていることが分かります。できる限り従来の中間業者を経由せず、資金の清算が行われる基盤そのものに直接つながるということです。それがニューヨークの資本市場であっても、東京の銀行間清算システムであっても同じです。日本においては、このプロセスは特に時間がかかりましたが、難易度が高かったからこそ、いったん突破できれば得られる優位性も確かなものになります。現在 Wise は8つの国・地域で現地の清算システムへの直接接続を実現しており、その中でも日本は規制のハードルが最も高い市場の一つでした。
日本で生活し、仕事をし、あるいは国境を越えた取引を行っている人にとって、これらの変化が意味するのは、日本円に関わる大口の送受金、日常的な決済、即時着金といった体験が、日本国内の銀行口座を使う感覚にどんどん近づいているということです。
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